コンポジット信号で処理する場合に比べ、機器構成が複雑になるが、ビデオカメラやモニタは元来コンポーネント信号で動作することから、相互変換が不要で画質の低下を招く恐れが少ない。また、高画質での画像合成にはコンポーネント信号を使うことが必要であり、映像制作・編集分野ではD1-VTRが市場に出た1980年代後半からハイエンドの編集室でCM編集を行う際に重用された。
また、デジタル記録やデジタル放送で行われる圧縮処理(高効率符号化)はコンポーネント信号を用いて行われることから、こうした技術を前提にしたシステムではコンポーネント映像信号を用いる。
コンポーネント方式は、三原色に対応したRGBを 成分とする方式と、RGBから輝度信号および色差信号に変換した輝度-色差を用いる方式とがある。前者は全ての色成分に対して同等の処理を行うため最高画 質であるが、情報量が多いことから処理量・記録容量を多く必要とする。このためテレビ放送やビデオパッケージにおいては、伝送・記録の効率化を目的とし て、「明るさに較べて色に対する分解能が低い」という人間の目の特性を利用して色成分の情報削減を行う色差方式が広く用いられる。これは、
輝度: Y = 0.299*R + 0.587*G + 0.114*B 色差: Cb= 0.564*(B-Y) = -0.169*R - 0.331*G + 0.500*B Cr= 0.713*(R-Y) = 0.500*R - 0.419*G - 0.081*Bのように、明るさを表す成分(輝度)と、二つの色信号と輝度信号の差分を表す成分(色差)とに再構成するもので、人間の目は色の解像度が劣化しても気づきにくいことから、伝送時には色差の情報量を1/2に削減することで、RGBと比較すると2/3の処理量で事足りる。
なお、このような変換に用いる係数をカラーマトリクスといい、いくつかの方式がある。上記の例はSDTV用のもので、ARIBで規定したHDTV用信号(後述)では以下の値を用いる。
輝度: Y = 0.2126*R + 0.7152*G + 0.0722*B 色差: Pb= 0.5389*(B-Y) = -0.1146*R - 0.3854*G + 0.5000*B Pr= 0.6350*(R-Y) = 0.5000*R - 0.4542*G - 0.0458*BSDTVと乗率が異なるのは、それぞれが基準としている3原色のCIE色度座標が異なっているためである。このため、SDTV用の規格では色差信号を「Cb」「Cr」(正しくはそれぞれ添字をスモールキャピタルとした「 CB 」「 CR 」)と呼ぶのに対し、HDTVのものは「Pb」「Pr」(同じく「 PB 」「 PR 」)と呼んでいる。なお、上記の式で用いる3原色信号はガンマ補正後のものであるが、ガンマ補正特性はどちらも同じ。また、基準白色のCIE色度座標も両者とも同じである。